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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(マ)63号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

昭和二六年九月一一日当裁判所が本件につき、上告理由書が法定期間に提出されなかつたものとして上告を却下した判決に関し上告人代理人から、右期間内に上告理由書を提出した旨を理由として異議の申立があつた。そこで当裁判所は同記録について調査した処、適法な上告理由書が他の事件の記録中に編綴されてあつたのを発見した。

その事情は次のとおりである。

本件は特別上告であるに拘わらず上告代理人は単に「上告状」と題して書面を提出したため異議申立書記載のとおり当裁判所第二小法廷書記課では普通上告の番号である(オ)第二八二号として訴訟記録受領の通知をしたのであるが、その後書記課では特別上告なることを発見し特別上告の番号である(テ)第二号と訂正して念のため更に記録受領の通知をした。処で右通知書を特別上告代理人が受領して後期間内に特別上告事件の理由書が当裁判所に到達しないので特別上告を却下したのであるが、異議の申立があつたので、当小法廷は勿論第二小法廷の同記録について調査して見た処、上告代理人が本件の理由書を他の事件の上告理由書と重さね同封して送つたため、書記課では二個の別個の事件の上告状が存するものと気付かず前記他の事件の記録に重さねて編綴してしまつたのである。

右の様な事情であるがともかく理由書は所定期間内に到達していたには違いなく従つて当裁判所が理由書の提出なきものとして却下の判決をしたのは誤であるから右理由書に基き特別上告として理由ありや否やを判断することとする。

本件特別上告の理由は別紙記載のとおりであるが、農地調整法第四条所定の知事の許可は本件の様な買戻の場合にも適用あるものとした本件上告審の判旨は相当であり、本件特別上告は理由がない。論旨では右の如く解すれば右法条は既得権を侵害するもので憲法違反であるというけれども知事の許可さえ得れば買戻出来るのであり、本件の様な場合は知事は当然許可するであろうし、(現に本件においても後に許可があつたことは上告代理人自身いつている処である)法は勿論かかる相当の理由ある場合には許可があるべきことを予想して居るのであるから法が既得権を害するものであるという論旨は当らない。論旨では当局の恣意その他不公正な処置によつて許可が与えられないかも知れないから既得権の侵害になるというけれども、それはその処分が不当不法なのであり、その不当な処分によつて権利が害せられるのであつて法そのものによつて害されるのではない。法が不当に適用されることを前提として法が違憲だというのは不当の飛躍である。もし公務員の不当の処置によつて権利が侵害される場合が有り得ることを前提として法が違憲であるというならば刑法その他の刑罰法規は勿論苟くも国民の自由権利を制限する法規の多くは違憲となつてしまうであろう。それ故前記法条が既得権を害するものであるとの論旨は当らないのであつて、これを前提とする違憲論は前提を欠くものである。要するに論旨は違憲をいうが違憲に名を藉り実質は前記法条に関する上告審の解釈を非難するに過ぎず特別上告の理由とならない。

よつて民訴四〇九条ノ六、(旧)四〇九条ノ三、四〇一条、九五条、八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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